ニコ二胡アレクサンダー

中国民族楽器の二胡にハマって学びを深めるうちに知った、アレクサンダー・テクニークについての探求の日々

頑張らなくちゃ!

f:id:nikoniko-alexander:20210409185820j:plain先日、キャシー・マデン先生のオンラインレッスンを受けた時のこと。

まずはキャシーに最近気になっている事を質問してみました。

Q.「どんな時も全体性が大切」とキャシーが仰るので、最近私の練習方法がアップデートされて来ています。前回は、部分的に気になる箇所があっても全体を失わずに練習する方法を教えていただいて、そのやり方で取り組んだら非常に上手く行きました。
その上で今、気になっているのは、全体性と精密さとの関係です。全体性を大切にしながら、最初から精密さを追求するのはやはり少し難しいような気がしていますが、そういうものなのでしょうか?

A. 全体性(Wholeness)はプライマリー・コントロール(初めから人が持っている調整作用)に根ざしています。
だからwhole(全体)でありながら細かく見られるのです。


キャシーに二胡を演奏するのを実際に見ていただきました。
出だしは、前回のレッスンで提案していただいたイメージを使って練習を重ねて来たので、速くなって行く箇所でも全体性を失わずに弾くことが出来ました。
後半で左手の指を色んな順番で動かす必要のある所に来ると、複雑な動きに左指がついて行けなくなって音の滑舌が悪くなりました。
これをなんとか流れに乗ったままクリアに弾きたいのですが…。

すると、キャシーが教えてくれたのは、その辺りに差し掛かる時に、わずかに顎を固めていたということでした。

「ここは難しいから頑張らなくっちゃ!」と思っているのが顎を固めるという形で身体に表れていたのですね。
心の動きは身体の動きに表れます。

アレクサンダーテクニークにおける観察は「全観察」と言われます。中でもキャシーの全観察はいつも凄すぎて、どんな微細な動きも見逃しません。

初めてキャシーのレッスンを受けた時は、何でもお見透し過ぎて、この人は魔女か超能力者なのではないかという脅威すら覚えたものです。

でも、それは彼女の徹底した全観察がなせる技なのだと理解出来るようになりました。

その後、自分がやっていた事を理解してから、新しく方向性を思いながらもう一度演奏したら、指の動きが前よりも良くなりました。
キャシーは、演奏前に笑ってから弾くと良いわよ、と言って笑わせてくれました。
笑ってから弾くと、さらに顎が緩んだのか、指が動きやすくなりました。面白いですね。

キャシーにわずかな顎の動きを指摘してもらった事で、自分が「がんばろう」と思っている時に、知らずに何をしていたかに気付かせていただく事が出来ました。「がんばる」=「力み」に繋がっていたのですね。

力まなくてもやりたい事を実現出来るとしたら、そしてそちらの方がずっと少ない労力で達成出来るとしたら、そちらを選びたいですよね。

感覚は後から

f:id:nikoniko-alexander:20210407175102j:plainアレクサンダーの発見を学んでいると、「感覚を頼りにしてはいけない」と言われます。

例えば、レッスンで上手く行ったアクティビティがあったとして、その時感じた「感覚」を頼りにして再現しようとすると、必ずと言っていいほど失敗します。

なぜなら、感覚は後からやって来るものだから。

「感覚」を探しに行っている時点で、すでに前にやった時とは違う事になっている訳ですね。

そもそも人は、いつも同じ場所からスタート出来るわけではありません。

「いつものように」二胡を持って「いつものように」弾くというのは感覚的にやっていると思いますが、果たしてそれは本当にいつも同じようにやっているのでしょうか?

ある時は色んな事が上手く行かなくて、少しうつむき加減でスタートしているかも知れません。
またある時は良い事があったので気分が良く、自然に頭が上の方へ行っているかも知れません。

スタートする状態が違うのに、その位置から以前やった時の「感覚」を使ってやろうとしても、上手く行くはずがありませんよね。

「感覚」はフィードバックとして、結果として上手く行ったのか、そうでなかったかの判断基準には出来ます。

ただアクティビティをしている最中に探しに行くものではないという事なのです。

これと同じような事で、「ちゃんと出来ているか」をチェックしながらやってしまうという事があります。

これもまた、「チェックしに行っている」時点で、そのアクティビティに100%投入している状態ではなくなってしまいます。

それでは何を頼りにすれば良いのでしょうか?

「頼りにするもの」は感覚でないのは確かです。
やっている最中に「上手く行っている感覚」を感じられるものではないのですから。

何をやるべきか?
その瞬間瞬間に、ひたすら自分自身へ指示を送り続ける事を続けましょう、という事になります。

そうやって指示を送り続けることが出来て、上手く行っている時には、いわゆる「やってる感」や「上手く行っている感覚」は感じられないものなのです。
これはこれまで培って来た馴染みのある感覚からすると、ちょっと寂しい感じもするものではありますが…。

ピンクの象

「ピンクの象のことを考えないでください」










……あなたは考えないでいられましたか?


考えないどころか、頭の中はピンクの象でいっぱいになってしまったのではないでしょうか?


f:id:nikoniko-alexander:20210406203128j:plain


以前の記事で、自分への指示は否定形でなく肯定形を使うという事を書きました。

それは頭でいくら否定形で考えても、それではむしろそのやりたくない事で頭がいっぱいになり、やりたくない事を、やりたくないと思っていようがやってしまう事になるからです。

だからこそ、やりたいと思う事の方へ焦点をあてる必要があるのです。

この事をわかっておくと、自分への指示が「明確」になって行きます。明確さは、自分の起こしたい変化を後押ししてくれます。

イメージの力

f:id:nikoniko-alexander:20210331221837j:plain前回の記事で、「観客がいると想定して練習する」など、イメージを使った練習について書きました。

「本番のエネルギーを使う練習」
https://nikonikoalex.com/entry/2021/03/30/235524

具体的なイメージは、何か目的があって物事に取り組んでいる時には助けになります。

例えば私が二胡を教えている生徒さんに対して、身体のこの部分から動かし始めたら上手く行くだろうと思った時には、「その部分から糸が出ていると思って、こっちの方向から引っ張られるとしたら?」など、誰もが思い描きやすいイメージを使います。

先日、ヨガのオンラインレッスンを受けている時に、ヨガの先生が私と同じように糸のイメージを使って指示しておられて、大変興味深かったです。
他にも、「大きな金色のフサフサした尻尾が生えていると思って…」という表現もありました。その尻尾で時には後ろから前に床を掃いたり、右脚の方へ寄せたり、左脚の方に寄せたり…。イメージしながら動く事で、重心移動などが楽にスムーズに出来ました。

やはり具体的なイメージがあると、やった経験がない事でも、取り組みやすくなると思いました。

イメージを作るにあたっては、視覚だけではなく、五感を使ってイメージすると、そのイメージはより鮮明になります。

例えば観客がいっぱいのホールをイメージする時でも、そのホールは何人収容のホールで、前から3列目の真ん中辺りにはどんな顔をした人が座っていて、どんな洋服を着ていて…とか、壁の質感や触った時の感触や温度とか、どんな風に音が反響するだろうとか、ライトの眩しさやステージに立った時の気温とか…。
ぜひ五感を総動員してイメージしてみましょう。

そして、これは実際の本番の前にも出来る事です。本番の前に出来る準備のうちの一つは、その場所を五感を使って確認する事です。
初めて行く場所にポンと放り込まれたら、誰だって危機意識を抱かずにはいられません。そうすると身を守りたいという意識が強く働き、恐怖感から緊張状態を呼び寄せてしまいます。

普段から五感を使って色んな刺激を受け取るようにしていれば、「五感を使ったイメージトレーニング」「五感を使った本番前の確認や準備」のどちらをやる時にも助けになります。

普段から、繊細なレベルにおいて自分の周りで起こっている事を受け取ることに慣れておくと、それに合わせて受け取れるものがどんどん深く繊細になって行きます。
人はここまでの繊細さで受け取ろうと自分で思うレベルで、それに合わせて受け取れるものが変わるのです。面白いですね。

本番のエネルギーを使う練習

f:id:nikoniko-alexander:20210330235509j:plainずっとそのために練習を積み重ねて来て、さあいよいよ本番!となった時、十分に練習を重ねたはずなのに、こんな経験をした事はありませんか?

・いつも間違えないような所でミスをする
・頭が真っ白になって何をしていたかわからなくなる
・手や全身がブルブル震える
・呼吸が苦しくなる
・上手く身体が動かせなくなる
・次のフレーズ、あるいは指使いが思い出せなくなる
等々…

こんな状態になる事を、「緊張してしまった」と言うことがありますね。

本番の演奏に対処しようとして湧き出て来るエネルギーは、練習の時のそれとは比べものになりません。
だから、そのエネルギーをどう使うかという練習を普段からやっておく必要があるのですね。

練習の時から、観客がいて聴いていると想定して練習をしましょう。
家族と一緒に住んでいるなら、たまには家族に聴いてもらうのも良いですね。
イメージするだけでも効果はありますが、イメージをする助けとして、ぬいぐるみをいくつか置いたり、大切にしている植物に聴かせたりするのも良いかも知れません。

また、本番の演奏の時に立つことになるであろう広い会場を想定して練習するのも効果があります。たとえ四畳半の部屋で練習していても、そこに広いホールと観客を想定して演奏するのです。

本番の時には使われるべきエネルギーがあって、身体はそのための準備をしています。でも、それをどう使ったら良いかを知らないと、先に挙げたような現象が起こってしまったりするのです。

これまでやって来た「曲を弾くための練習」に、「本番のエネルギーを使って演奏する練習」を加えてみたらどうなるかな?という好奇心を持って取り組んでみたら、これまで「緊張」というレッテルを貼って目を背けていた様々な現象に変化が起こって来るかも知れませんね。

部分が気になる時ほど自分の中心を見よ

f:id:nikoniko-alexander:20210325204506j:plain楽器の練習をしていると、どんどん部分的な事が気になって来る事がありませんか?

私はどうやらそっち派で、やりこめばやり込むほど、「曲のここの部分が気になる〜」となって、そうして部分を見ようとすればするほど、身体全体が無意識にキューっと縮まって行きます。

もちろん練習の過程では、曲の中で部分的な所を丁寧に見ていかなくてはいけない時もあります。でも、部分的な事を見ているからといって、身体まで縮まる必要はないのですね。

楽譜を見ている眼についても使い方を考えて使うことは出来ます。

「見る」というと、眼で見ていると思いますよね。つまり顔の前面にある眼そのものが、見ていると思いがちですが、実は眼は光が入って来る場所であり、実際に像として認識しているのは脳の後ろの方なのです。試しに、頭の後ろの方で物を見る、と思ってみてください。眼に対する負担が減るような気がしませんか?
物を見るために頭を動かす時には以前ご紹介した頭と首の間の関節(この部分をAOジョイントと言います)の所から動くと思って動かしてみましょう。

過去の記事:「頭はどこから?」
https://nikonikoalex.com/entry/2021/03/08/220029

身体の部分でどこか気になる所がある時、例えば、速いパッセージを弾く時に左手の薬指の動きが悪いなと思う時。(薬指が独立して動かしにくいのには理由があるのですが、それについてはまた別の機会に…)

こういった場面でも、その部分が気になりだすと、そこばかり見てしまいがちです。
そこへ意識が集中すると益々ぎこちない動きになってしまいます。

そんな時は、自分の軸の部分で何をやっているかに目を向けてみると、改善や解決の糸口が見つかる事が多いです。

ここで言う軸とは身体の中心となる部分で、頭と脊椎を中心とした、いわゆる頭と胴体の部分の事です。軸骨格と呼ばれる部分には肋骨も含みます。

f:id:nikoniko-alexander:20210325204832j:plain
この図の中で、ピンク色に塗られている所が軸骨格です。

腕〜手、脚〜足は構造上、軸となる頭〜脊椎からぶら下がっているので、軸の影響を受けます。

指先の動きが気になる時でも、頭と脊椎で何をやっているかな?ともっと自分の中心の方へ意識を向けると、それだけでも先の方の動きが良くなったりします。

そのくらい、頭と脊椎で何をやっているかが身体全体に影響を与えています。しかも身体の先の方で行う繊細な動きほど、軸からの影響を大きく受けやすいのです。


文中で引用した図は
Wynn Kapit / Lawrence M. Elson著
"The Anatomy Coloring Book" 第3版より

自分への指示

f:id:nikoniko-alexander:20210323121647j:plain脳は否定形の指示を正しく受け取れません。
なので、自分に何か指示を出す時には、肯定形で考えます。

例えば、二胡を弾く時に、鏡を見てチェックしてみたら、自分では弓を「真っ直ぐ」動かしていると思っていたのに、実際には弓が先の方へ行った時に反対側が下がっているのに気付いたとします。その時に「下がらないように」と思いながらやると効き目がありそうな気がするものです。

しかし、これでは脳には「〜しない」という所が伝わらないので、脳は具体的にどういう指示を送れば良いのかわからなくなり、その部分にただ意識が集中して、本来働く必要のない筋肉に、必要のない力が入ってしまいます。これが「力み」ですね。

そんな時は「〜しない」と言う代わりに、その指示を肯定文に変えられないか考えてみましょう。

先ほどの弓の動きの場合でしたら、行って欲しくない方向を考える代わりに、行って欲しい方向を考えます。弓の右先端がどこへ向かうように動かせば、自分の目指す「真っ直ぐ」になるのか、的(まと)を設定してみます。そしてそこへ弓の右先端が向かうように動かすには自分の身体のどこの部分が先に動き始めれば良いかを考えます。

幸いなことに、具体的な指示があれば、身体はそれを「思う」だけで従ってくれます。ただし、身体のデザインに沿っている事が大切です。もしも実際には関節がないような位置で「曲げよう」と思っても曲げられないですよね。でも脳からの指示により身体は、どうにかして曲げようとしてしまうので、負担の大きな曲げ方になってしまうのですね。

ボディマッピングを丁寧にやって行くと上手く動けるようになるのは、身体の中で自分自身が誤解している部分を整理する事が出来るからなのですね。